獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201501-22

Re7:うさぎの口内膿瘍
投稿日 2015年1月22日(木)11時42分 投稿者 プロキオン

正式な細胞診断となりますと、ターゲットとなる腫瘤の組織から細胞の塊を採取して、その細胞を固定してから病理検査診にまわして診断してもらうことになります。
ただ、これですと、時間もかかりますし病理の専門家の診断を仰ぐ必要がありますので、臨床医のもとで実施されるのは、針のついたシリンジで腫瘤の細胞を吸引して、病院内で簡易染色をして細胞の構成を確認するというものです。
よく使用されているディフクイック染色であれば1分くらいです。メイギムザ染色であれば40〜50分くらいで染色が終わります。
染色が終わった細胞を顕微鏡でのぞいてみて、白血球と壊れた細胞ばかりであれば、「炎症(今回の場合は膿瘍)」ということになり、均一の同じ細胞ばかりで構成された集塊であれば「腫瘍」ということになります。
この均一の細胞というのが上皮細胞であれば「癌腫」であり、非上皮細胞であれば「肉腫」と言う診断が下されます。本来は、このときに由来している細胞の種類が判断できるようであれば、「〇〇腫」というような診断名がつきますが、針生検の場合ではそこまでの診断名はつかないことの方が多いかと思います。
私の場合も、「炎症」、「上皮性腫瘍」「非上皮性腫瘍」のレベルにとどまります。

そして付け加えるのであれば、「腫瘍」のケースでも腫瘍細胞における悪性度を見ることができますので、悪性を示す所見が細胞中にいくつも認められるようであれば、「悪性腫瘍」の判断もつくことになります。悪性所見が認められない腫瘍であれば、切除どころかとりたてて処置を急がないケースもあるわけであって、この点を確認できるだけでもかなりありがたいことにもなりえるわけです。
だから、簡単な検査であっても重要な意味をもってくることになるのです。

そして、実際に実施するうえでは、「膿瘍」と「腫瘍」と診断される以外に、もう一つ重要なケースがありまして、「自壊して化膿を伴った腫瘍」というのも想定しておかないとなりません。すなわち、腫瘍が壊れ始めて炎症を伴ってしまっている段階にまで進行してしまっているという症例です。
このケースですと、腫瘍細胞がすでに遠隔地まで転移してしまっている可能性が高く、手術で治癒することはあまり期待できません。患者の状態によっては手術を避けますし、また別の状態によっては敢えて手術するということもあります。それこそ、患者の容態如何ですので、飼い主さんの希望や覚悟にもよります。

そういう転機や手術の実施の有無を左右しかねない要素をもった検査ですので、腫瘤の正体が分からないというのであれば、私としてはまず外す事ができない検査と言えます。
なにしろシリンジと針、それにスライドグラスと染色液があれば鏡検時間も含めて10分あればよいのですから、飼い主さんに待っててもらってその場で実施します。検査料金も相当に安くしています。
もっとも、これは私が学生時代に病理の研究室に所属していたため、自分で鏡検してしまうからだと思います。
最初の先生は、この分野の検査に馴染みがないのか、あるは苦手意識があるのかもしれませんね。少なくとも針を刺すことが危険な状態であれば、鎮静剤も抗生物質の注射も危険ということになりますし、手術となればその危険性は比べようも有りませんから。
手術が可能な患者であれば、針生検が危険ということはないはずです。この点だけは他の患者さん達のためにも言っておきたいと思います。

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