獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201601-52

麻酔銃の適応
投稿日 2016年3月25日(金)11時42分 投稿者 ムクムク 

先日、逃走したシマウマが死亡した事件がありました。
シマウマには吹き矢で麻酔がうたれていたと聞いております。
私は町の獣医で麻酔の専門医ではありませんが、自分の知っている限りで説明させていただきます。
通常麻酔を使用する場合、体調を調べ、体重を測定し、体重あたりの適切な量を使用します。
鎮静剤を静脈か筋肉注射して鎮静(落ち着かせる)します。
動物が眠れば気管チュ−ブを挿入して呼吸を確保します。
酸素に混入させた麻酔ガスを吸引させ、完全な麻酔状態にします。
人でも動物でも、基本は変わりないです。
しかし、このような全身麻酔でも死亡率はゼロではありません。
人では十万人に一人くらいの死亡率と言われています。
先日、ダルビッシュ投手の肘の手術の記者会見で、しきりに麻酔が怖いと発言していましたが、今は手術前に医師から手術のリクスだけではなく麻酔のリスクも説明されますので、このような発言になったんだと思います。
私も、手術の前に麻酔のリスクを説明しますが、非常に動揺された飼い主さんを何例か経験しています。
さて、本題の麻酔銃や吹き矢による麻酔です。
麻酔銃用の麻酔薬があるわけでなく、通常の手術に利用する適切な麻酔薬を利用します。
動物の体重は当然計量できませんので、薬用量は非常にアバウトになります。
また、事前の鎮静など出来ませんので、いきなり麻酔剤を投与することになります。
この場合、通常の体重あたりの麻酔量では効かないことが前提となります。
1.動物はとても興奮しており、麻酔で眠りにくい。
2.通常は血管注射して速やかに効果のでる血球濃度にするのですが、筋肉中になりますので、効果の発現が遅い。
そのようなわけで、当初計算した薬物量では全く効果が見られないと言うこともあり得ますので、動物の捕獲が前提の場合多めに設定することがほとんどだと思います。
つまり、動物によっては危険量になることもあると言うことです。
テレビなどで野生動物に麻酔銃で眠らせ発信器を取り付け、速やかに離れるなんて映像がありますが、現場を知っている人に言わせれば、あれはうまくいったときの映像。
死ぬこともあるとおっしゃっていました。
実際、野生の象に中途半端な麻酔状態で近づけば人が死ぬわけで、かなりの量を撃つことはそうだろうと思います。
麻酔は、病院内で事前の準備を十分に行っていてもリスクはゼロではありません。
まして、いきなり走り回っている動物に麻酔をうてと言われても多くの獣医師は腰が引けるでしょう。
自分がその立場になってしまえば、私は死亡することが想定されるがそれでもいいかと責任者に明確な同意を求めます。
このような麻酔は病院内の麻酔に比較しようもなく、批判を受けるかもしれませんが曲芸に近い作業。
では、そこまでして麻酔銃や吹き矢による捕獲をするかと言えば、逃亡動物による危険が想定される時。
人に危険が及ぶ可能性があるときでしょう。
シマウマが逃げだし、車道に飛び出せば単なる物損事故で済まず、人の生命に及ぶこともあるだろう。
走って子どもを引っかけられたら大けがすることもあるだろう。
一刻も早く捕獲したかったんだと思います。
私が作業を引き受けざるを得なくなれば、動物の生命の保証はしません。
私が安全にやるという獣医師が他にいれば、その方にお願いすることになります。

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