獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200110-64

「行政の責任」
投稿日 2001年10月6日(土)18時45分 はたの

行政に責任がないとか、狂牛病はたいして危険でない、と言っているのではないのです。
 狂牛病は危険でしょうし、行政には直接またメーカーへの指導という間接の責任があるにその責を果たしているとはいいきれないでしょう。
 が、日本は民主主義国家なので、最終的な責任は「行政」とか「政府」ではなく、私たち自身にあります。行政には雇い主たる国民に対する責任がありますが、それば「全責任」ではなく(「全権限」を与えられていないのですから)、雇い主たち国民の側に、政府を選ぶ権限があり、とうぜん、その責任があります。
 国民の希望すべてを叶えるには予算は足りず、何に何割、何に何割と割り当てねばならず、合計は10割にしかなりません(本来は。あれもこれもやれと「いまの国民が」言うから未来の国民に負担を押しつけていますが)。何に何割を注ぎ込むかを考えるときには、必要性や、リスクの有無ではなくその大きさや、費用対効果を考えざるを得ません。これを担当しているのも行政の一部ですが、その一部を任じたのもやはり私たち自身です。
 つまるところ、主権在民の国家で「行政に全責任がある」ことはあり得ないわけです。行政は行政の持つ限定的な権限・責任の限りにおいてのみ批判されるべきものと考えます。

 「喉につまるサイズのモチや滑りやすいタイルを販売した」「それを規制しなかった」といってメーカーや行政を責めることもできるので(似たような訴訟、アメリカなんかにはありますね)、狂牛病は特別ということにはなりません。情報にしても、「モチは喉につまることがある」「濡れたタイルは滑りやすい」という「情報」も私たちは私たち自身で確保しなければならないのであって、「行政が教えてくれなかった」とその全責任を(限定的にはありますが)を負わせることはできません。つまりは程度の差異に過ぎず、質の違いはないのでありましょう。
 プロキオンさまがご教示くださる諸問題にしても、報道上は「新事実」でも、「新発見」以外は「誰か」は知っていたはずで、その誰かが公務員の研究者であるならばこの騒ぎになる前にもっと声高に警告しなかった不作為が、行政官であったのなら対策を怠ったことが責められるべきです(職能の範囲内で、ですがね)。行政官がその既知の事実を知るのを怠っていたのであればそれも。
 けれど他方、「行政に全責任を負わせる(全権限を放棄する)」傾向が、かような怠慢の下地ではありますまいか。問題が生じて初めて騒ぐのはある面しかたないことで、また改善の「きっかけ」としての功はあるものの、過ぎれば、「問題になる前に地道にシステムを改善していく」営みの障碍ともなり得ましょう。
 O157、院内感染、レジオネラ等近年の保険衛生上の問題は、TVニュースになる前から危険性は指摘されていました。けれど対策が後手にまわったと。結果、費用対効果が悪化したでしょう。国の金は私たちの金なので、私たちが損をしたのです。それぞれの専門家・関係者はその分野ごとに「なぜ後手に回ったか」を検証して改善してくれなくちゃこまりますが、問題の本質は「早い段階で対処できない行政システム」でしょう。騒ぎになってから個々に対策、を繰り返すのみではいつまでたっても後手に回り続けるので。
 で、騒ぎすぎれば、一定量しかない行政の資金はその騒ぎの対処に大きな割合を注がざるを得ず、「次の危機」「他のリスク」に事前に備えるところまで届かなくなり・・・と悪循環に。
 私たち国民としては、問題が大きくなってから騒ぐ以上に、表面化していない問題の芽を摘むように、それが可能なシステムとするように行政を促し、応援していくべきではありますまいか。そのほうが安く安全が買えるわけで。たとえば保険衛生関係の国立研究所が独立法人化してい(き)ますが、その活動を応援するために寄付をするとか。補助金を出すよう財務省や議員に手紙を書くとか。あるいは自分が投票するかもしれない候補者の見解を質すとか。地道な努力をホームページで誉めるとか。
 
 必ずしもきちんと計算できるとは限りませんが、可能な範囲でリスクを定量化して、費用対効果を考えて、他とのバランスを考えて、ことにあたってほしいものだなあと思うわけです。狂牛病にさえならなければ永遠に生きられるわけではないので、他のリスクを無視はできない、となれば、狂牛病に無限のエネルギーを費やされては困るのです。どこまでやるか幾らまでかけるかという枠組みは必要でしょう。私たち自身にしても、どこまでの犠牲を払って、リスクをどのぐらい軽減させようと思うのかを考えねばなりませんし、それに必要な情報は国から「与えられる」のを待つ筋合いのものでもないでしょう。どれだけのコスト・努力をはらつてどれだけの情報を得るかも個人の権利および責任ですから、国に任せるものではありますまい。

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