獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200607-46

死後硬直とペットロス
投稿日 2006年7月5日(水)16時02分 投稿者 プロキオン

ちょっと、私のレスを不思議に感じている方がいるようですので、補足で趣旨を説明し
ておきます。

死後強直、学生時代には、強直でも硬直でもどちらでも良いと教わったのですが、昨
今は硬直が有意のようです。少なくとも辞書をひくには「硬直」の方が便利なようで
す。

死後硬直が解ける時間についての質問が先日ありました。「獣医学辞典」によれば、
死後10分から数時間始まり、心臓、横隔膜、咬筋、前足、後ろ足、とすすみ、約24
時間持続し、この順で解けていくと記載されています。
つまり、なぜ、そんな簡単なことを答えられないのかということなのです。

すなわち、24時間という数値であれば、質問者が病院に犬を入院させる頃には、すで
に死亡していたということになってしまうからです。
質問者は医療関係で働いているようでしたし、当然そのあたりの知識はあると考えられ
ます。職場にも医学辞典はあるでしょうし、ないにしてもお医者さんの誰か1人くらい
は所持していると思います。
医学辞典に記載されていることと、つじつまが合わないという場面こそ、個々の患者が
置かれている病状(死亡原因)と死体の保管環境に由来していることとなります。そし
て死亡時の状況を知りえない者、とくに医学的知識があれば、入院中の犬の死亡であれ
ばその動物病院のスタッフがある程度の時間を把握していると考えるのが普通と言えま
す。質問者からの話だけで、動物病院スタッフの把握している時間を正確に推測するこ
は困難ですから、「動物と人間は違うから…」ということになってしまうのではないか
と思います。
実のところは、人間も動物も大きな差はありません。人間も哺乳類の1種なのですしね。

# 私の義兄は、2年前のちょうど7月に脳内出血で突然亡くなりました。脳幹部にお
  ける出血であったため、体温調節ができなくなっていて、異常なまでの高体温のま
  ま亡くなりました。
  日付が替わる頃の死亡で、帰宅して朝になって近所の方達のお悔やみを受ける際に
  は、すでに死斑が首筋から現れておりましたし、「末期の水」でも死硬が解けて口
  元が開いてしまうのではないかと非常に心配しました。お通夜や告別式と兄の亡骸
  が人目に触れる都度、本当にハラハラしながら、葬儀社の方達とファンデーション
  を厚くしたり、霜柱が立つまでドライアイスを使用したりして、死後硬直が解けな
  いように、とにかく、死後変化が進んで、死者の尊厳が傷つかないようにが私達の
  仕事でした。

死後硬直がとける時間「解硬時間」は、親しい者の死を経験していれば、それが人間で
あれ、動物であれ、感覚としてつかんでいるはずのことなのです。(正確にはいきませ
んけれども)
まして、それが医療現場にいる者であれば、手を伸ばせば届くところに答えはあります。
ただ、正確な個別の時間であれば、あらかじめ測っておくか、法医学的な検査の必要が
あることになります。
質問者の投稿内容には、残念ながら、個別の時間を知る根拠となる記載はありませんで
した。しかし、むしろ、それが当たり前のことなのです。

当該の動物病院は朝出勤したら、死んでいたので分からないとの説明だったようなので
すが、これは質問を変えて、「最後に体を起こしているのを見たのは何時ですか?」と
いう質問であれば、返ってきた返事がおそらくもっとも近似値ということななるとはず
です。
ただ、私は、そのように再度質問してみてはと勧めません。
そこに至る過程で質問者がよりつらい事実を直視せざる得ないからです。私はその病院
のスタッフが帰宅した後に死亡したのではないかと繰り返して述べました。それが、知
りえる中で最も近似値であるからです。このことはヒントとして述べるにしても、それ
を問いただすか否かは、質問者自身の問題です。よりつらい現実を直視する勇気をもっ
ているかどうかは他人が押しつけるべきものではありません。深層心理ではそれを避け
たいと考えているのではないかと思うのです。
たんに、命日を知りたいというのであれば、はたのさんのレスにあったように「前日の
方が可能性が高い」で充分ですし、それが自然な考え方だと私も思いました。

# よりつらい現実というのは、当該犬が危篤状態にあることを気がつかなかった、そ
  して、そのまま入院させてしまったという事実であり、さらに その先に死亡原因
  となった子宮蓄膿症に罹患していることを認識できずに、病気を進行させてしまっ
  たという事実があります。
  子宮蓄膿症は、進行させてしまえば、死亡に繋がる疾病ですが、早期であれば、完
  治させることができる疾病であり、死ぬ例もあるが、早期に治療を開始すれば大抵
  の症例は生還できる疾病と言えます。
  このことは、飼い主にとっては、極めて重い意味がありますし、医療関係者であれ
  ば、なののことです。
 
ただ、供養のために命日を知りたいのであれば、難しいことではありません。はたのさ
んのレスで充分なのです。それ以上のことを求める必要はありません。
それ以上のことを求める場合、はたして、そのつらい現実を認めることができるのか否
かが相談された側としては、気がかりなのです。私は質問者がペットロス症候群の渦中
にあると判断しておりましたので、あえて泥沼の中に踏み入って行く事は賛成できかね
ました。そこまでご自身を傷つける必要はないし、泥沼に突き落とすこともできません。
死亡時間にこだわらなくても命日は決められますし、それでほぼ違った日時ということ
にもならないと思います。
私が、「なぜ、そんなにこだわるのですか?」と尋ねたのは、単純に誰も知りえない時
間にこだわっていることが、同じところに立ち止まって、悲しむための理由になってい
るのではないかと推測したからです。(むろん、ご本人は意図的はではなく、深層心理
としてのことです)
医学辞典を引いても良いですし、コンピューター搭載の辞書でも記載されている内容な
のです。おそらく、正確な時間を知りたいのではなく、そういう努力をしている自分と
いう存在で、当該犬に謝っているのではないかと思うのです。
ですから、前日と誰かが言えば、前日を否定する意見を見つけてくることになるのでし
ょうし、後日ということであれば、また前日ではないかと疑い始めるということなので
す。
そういう有様を見たものであれば、気の毒と同情はしてくれます。
私達獣医師は、職業柄、ペットロス症候群の方に遭遇することは多いです。ですから、
ペットロスの飼い主さんに対しても寛容でいることはできます。
また、ペットロスの方は、「頑張って」とか、「しっかりしなきゃ」という励ましの言
葉に拒否感を持つことが多いものです。耳に入ってくる言葉を選んでしまうのです。
しかし、日本という国は、ペットロスに対して寛容な国ではありません。いつまでも嘆
き悲しんでいる方を異分子として社会や職場が排除しようとするようになるのです。
その時に、間に立って庇ってくれるような人をご本人自らが排除してしまっていること
が多いのです。ただ行きずりの同情だけの方は、そのような時には決して力にはなって
くれません。例え、泥の中でも自分自身の2本の足で立っていただくしかないのです。


「なぜ、こだわるのか?」は、「自分自身で問題に向き合う意思はお持ちですか」であ
り、「そこまでしなくてもよいのではないでしょうか」なのです。
「第三者で決めさせてよいのか、自分で決めなくては」は、「自分の足で立ってくださ
い、誰も助けてはくれないのですよ」ということに他なりません。そして、それは、ペ
ットロス症候群の渦中にある方にとっては素直に聞いてもらえるとは、限りません。
むしろ、否定的な感情の方が大きくなる可能性もあります。オブラートに包まざるを得
ないのです。それでも、反発されてしまう方はいるかもしれないのです。
CAPP活動を主宰されている某先生は、飼い主は保護者であると同時に、癒しの感情
をペットからもっている。それはすなわち、ペットの死が子供と母親を同時に亡くした
のと同じくらいの衝撃を与えることになるのだと話されていました。
子供の死だけではなく、母親の死も重なっているのだから、「ただ、好きなだけ泣きな
さい」とか、「悲しい自分を認めてよいのだ」と言ってしまうと、本当に立ち直れない
までに底なしに悲しんでしまう。叱咤激励しても、泥沼から引きずり出す力も必要なの
だと話を続けられました。私もその先生の意見に賛成です。

解硬時間をただ告げて、つらい現実をつきつけるのよりも、いったんは死亡時間のこと
は忘れて、自分の足で立って欲しいと思いますし、単純に少しでも長く生きていたと受
けとっていただいと方がよいと思うのです。
ただ、辞典にあるとおりの回答ではベターでも、ベストでもないと考えたのです。

辞典には、「栄養の良い筋肉、活動の激しかった筋肉には死後硬直が強く起こる」とあ
ります。消耗しきっていた肉体であれば、これと逆ということになるのでしょう。解硬
も早くくるのではないかと考えられます。こういうことにも触れたかったのですが、言
えば言ったで、それだけ犬の状態が悪かったということになってしまいます。
もともと、質問者に対してよい材料というのはなかったように思います。

ただ、1つだけ忘れてはならないのは、この道はペットを飼育している者は誰しもが必
ず一度は通る道なのです。
経験者は、同情もしてくれる半面、また厳しい見方もすることがあるということです。
私は、質問者がつらい現実に直面する必要はない、まず立ち直ることが先決と考えたの
であのようなレスになったということになります。





◆獣医師広報板サポーター◆
獣医師広報板は多くのサポーターによって支えられています。
以下のバナーはサポーターの皆さんのもので、口数に応じてランダムに表示されています。

サポーター:新日本カレンダー株式会社ペピイ事業部様のリンクバナー

サポーター:ペットコミュニケーションズ株式会社様のリンクバナー

サポーター:ペット用品通販Gズ\ィエ.COM有のリンクグオー

サポーター:日本ベェツ・グループ 三鷹獣医科グループ&新座獣医科グループ 小宮山典寛様のリンクバナー

あなたも獣医師広報板のサポーターになりませんか。
詳しくはサポーター募集をご覧ください。

◆獣医師広報板メニュー
獣医師広報板は、町の犬猫病院の獣医師(主宰者)が「獣医師に広報する」「獣医師が広報する」
ことを主たる目的として1997年に開設したウェブサイトです。(履歴)
サポーター広告主の方々から資金応援を受け(決算報告)、趣旨に賛同する人たちがボランティア
スタッフとなって運営に参加し(スタッフ名簿)、動物に関わる皆さんに利用され(ページビュー統計)
多くの人々に支えられています。

獣医師広報板へのリンクサポーター募集ボランティアスタッフ募集プライバシーポリシー

獣医師広報板の最新更新情報をTwitterでお知らせしております。

Copyright(C) 1997-2022 獣医師広報板(R) ALL Rights Reserved
許可なく転載を禁じます。
「獣医師広報板」は商標登録(4476083号)されています。