獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-200102-51

ペットロス
投稿日 2001年2月10日(土)23時15分 はたの

小松左京氏の分析によれば、民間療法には1 母型・2 父型・3 祖父母型があるとの由(人間博物館、文春文庫)。
たとえば風邪をひいたとき、暖かくして体力の涵養に努めるのが1、水でも浴びて気を引き締めて立ち向かうのが2、そのどちらにも偏らず、ア・セクシャルな方策を採るのが3。
ペットロスにもいろいろな対処がありそうです。
すでにレスがついているのは1型ですね。奏効する確率が高いのはたしかにこの1型でしょう。思い切り泣いてしっかり悲しみ、誰かに話を聞いてもらう、のが、とりあえずは妥当な対処法でありましょう。
しかしながらそれでも残るアクや澱はあります。また、友人に慰められるのがかえってつらい、泣いたり、話をしたりしたくない、という性格のひともあります。2 3のタイプの対処法も選択肢として無意味ではないでしょう。

C.W.ニコル氏は、よんどころない理由で愛犬を自身の手で射殺した経験を書いておられます。
シベリアのチュクチ族だったかには、飼い主の死とともに、斧で頭を一撃してイヌを殉死させる習慣がありました。
寓話的にしか覚えていませんが、昔のスペインの領主の妻、夫の留守中に戦争になり、息子を人質にとられて開門を迫られました。城壁の上でスカートをまくって、「殺すなら殺せばいい、子供なんかコレがあれば何人でも産める」と言ったとか。
こうした厳しい態度がありうる一方で、僧侶を模した江戸狂歌に、「いままでは他人のことと思いしが 俺が死ぬとはこいつはたまらん」なんてのもあります。永沢万治(字が違うかも)氏の「あっ死んじゃった」という、おかしくも悲しい著作もあります。

悲しんだり人に話したりしてとりあえずの感情を整理するのは当然ですが、失ったペットについて思いが堂々巡りを始めると、「悲しんでいる可哀想な自分」「繊細で傷つきやすい自分」に溺れて出られなくなったりします。悲しむのは自己愛の変形ですから、死ぬほど悲しい状態は妙に居心地よかったりしますので。
感情は自分ではコントロールしにくいので、でも溺れつづけるわけにはいかないので、少しはコントロールしやすい理性からとっかかりを作る、つまり前記のような、いろいろな形の生や死への向かい合い方について考えてみるのはいかがでしょうか。

ちなみに個人的には、一人で暗く酒など飲んで、感情の一次処理は終わらせます。悲しみにかまけて生きている動物たちの世話をさぼるわけにはいきませんから。緊急度の差はあれど、戦場や災害現場で語られる、「悲しむのは後でもできる、今は何々すべき時だ」と同じです。
幻覚幻聴は受け入れ、自分が彼または彼女を愛していた証拠だなあ、と楽しみます。
死にいたる経過での自分の判断については、後悔ではなく、再検討します。獣医に連れて行くタイミング、獣医の選び方、インフォームドコンセントにおいて自分が示した同意は妥当だったか。もし再び同じ状況になっても同じ判断をするのが正しい、または状況から妥当だった、ことについては忘れます。ああすべきだった、と思えることについては、次の機会に生かすために銘記します。この作業は自分(の悲しみ)を客観視するのに役立つとともに、複数の動物を飼っているなら義務でもありましょう。
個人的には、他者から慰めをかけられのがいやな意地っ張りですが、だからといって、放っておいてくれ、とリクエストはせず、ベタな慰めにも感謝します。放っておいてと言うことは、気の遣い方にもっと気遣え、ということで、意地を張るの整合しないので。

最終的に残るアクや澱は、いかに受け入れがたかろうと、受け入れることにします。自身の死は受け入れがたく、しかし、受け入れないわけにはいかないのですから。
典型的なのは山菜などですが、アクや澱やエグミがなかったら、食べやすいかもしれないけれど、味気ないでしょう。それらも味のうちです。
茹で足りなくてエグミが強すぎることもあるでしょう。それでもやはり、それも味のうち。自分の責任で採ってきたからには食べます。
動物の死も同様に、動物と暮らすという「味」の一部でありましょう。いずれ死ぬと知っていて、それを覚悟して飼い始めたわけで、感情の混乱を含めて、自分で引き受けるのが筋でしょうから。うろたえるのは士道不覚悟でみっともないので、意地でもキチンと自分の中で処理します。

以上、父型的な対処法の一例まで、万人向きとは思いませんが。

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