獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-200204-115

プーさま
投稿日 2002年4月27日(土)05時31分 はたの

少し長くなります。
 
 オオカミの暮らしをイメージしてみてください。
 正確性やら細かいことはすっとばしてざっとお話ししますと、オオカミは家族群れで暮らします。
 夫婦が基本単位。それに子供。ここに、夫婦の兄弟姉妹や、何年か前に生まれた子供などが加わることがあります。これらは基本的に繁殖せず、ヘルパーといわれます。自分より幼い兄弟姉妹や甥や姪は幾分かは自分と遺伝子を共有しているので、自分で一家を構えて「自分の子」を産むのでなくてもいいわけなのです。
 こうした「家族」があり、これら家族には近隣に「親戚」がいます。実家やら別に一家を構えている兄弟姉妹やら。冬に大きな群れを作る場合は、こうした「氏族」が単位となります。

 血族結婚ばかり繰り返してはいられませんから、氏族間での個体の入れ替えもあります。雄が一匹狼になって放浪し、どこかの「氏族」の雌と出会ってペアになって、まあ「婿入り」するわけです。
 
 が、簡単に受け入れられるわけではありません。一匹狼は遠吠えをしません。なぜか。地元の氏族に見つかると殺されるからです。遠吠えはその群れに何匹いるかを示す示威行為なんです。歌う時、音が揃わないようにオオカミは注意を払います。実際のメンバー数より少なく聞えてはソンですから。

 群れを守るのは主に雄の役目です。オオカミではペア間の結び付きが強固ですが、本質的には雄は「入り婿」で雌の家系に「一時的に雇われている」のです。雄が自分の遺伝子を残すためにはライバルは排除する必要があります。
 他方、一匹狼のほうも、前任者を排除したいわけです。
 露骨なものだと、ハヌマンラングールやライオンの子殺しが知られています。雄が入れ替わると、新たな雄は前の雄のタネの子を殺してしまいます。授乳しなくなった雌は素速く発情して新任の雄の子を身籠もります。マウスなんかはもっと合理的で、新しい雄の臭いを嗅いだ雌は子宮内の胎児を吸収して栄誉右げんとして新しい雄の子を宿します。
 オオカミでは強固なペアボンドによってこうした乗っ取りはないようで、若い「空き家の」雌を探すようですが、雄同士の対立の原理は同じことです。なので雄同士は、順位がついてしまえば、一家の中では比較的平穏です。実際に血縁がなくても、劣位の側が「ヘルパー」的になるからです。
 雌同士の対立もあります。プレイリードッグやリカオンでは、ナンバー1雌が劣位の雌の子を殺します。ここでは異性ではなく縄張り内の食料という資源を巡って競争がおきているわけです。オオカミでは優位雌の存在が劣位雌の発情あるいはすくなくとも受胎を抑制するのでそもそも妊娠しないようです。イヌの雌同士の争いは一つの家で飼われている同士の間でより激しいのはここに遠因があります。
 で、別の家に属する雌同士でも、争うことはあります。やはり食料資源、それを担保する縄張りに関しては、本質的に雌同士のほうが雄同士よりシビアに争うはずです。

 雄雌間の争いも有り得ます。
 雄は雌を確保したい。雌にその気がなければ雌は断わります。この場合、雌は強く攻撃します。オオカミでは、あるいはその性質が強く残る犬種では、雄は雌に対しては攻撃が抑制されますが、改良度が高い犬種では(ヒトが思うように交配するためにはイヌ同士の相性はないほうが好都合ですからそれが削られ、セットになっていた抑制も削られ)雄が雌を攻撃することもあります。
 あるいは、異なる「氏族」だという気分になれば、雄も雌もなく殺し合います。

 で、イヌですが。
 「意図的に雄同士の闘争を減らそうと品種改良されたもの以外全部」は、他家の雄同士は敵対的で当たり前なのです。なぜか。もとのオオカミの性質が色濃く残っているから、です。
 本当にご近所の何頭かとはうまくやれるかもしれません。オオカミでいう同じ「氏族」の別の「家族」に属する、血縁のない「雇われ雄同士」のように。
 が、見知らぬ雄には敵対的で普通です。たとえ公園でしばしば会っていたとしても、数が多すぎれば仲良く出来なくて不思議はありません。オオカミが自分の「氏族」だと認識できる相手の数は、自然の中でよくあるぐらいの数に限られているでしょうから。

「意図的に雄同士の闘争を減らそうと品種改良されたもの」であっても、一部の個体は攻撃的です。品種改良といっても性質を完全に変えてしまえるわけではありませんから。
 
 つまり、別の「家族」別の「氏族」のイヌ同士は本質的には敵対するものなんです。といっても合えばケンカというわけではなく、弱いほうがとっとと逃げるとか、避けるとか。「お友だち」みたいに仲良くなるのはやはり例外的です。いくつかの条件にあてはまる必要があり、その条件にはそれぞれハードルがあるのです。
 実際にそうであるかどうかは別として誤解でもいいのですがイヌの感覚として「同じ家族」「同じ氏族」と思える時にのみ仲良くなるのです。

 公園で仲良く遊ぶのが当たり前、という風潮は、イヌをヒトの子供扱いする擬人化と、「意図的に雄同士の闘争を減らそうと品種改良されたもの」が多いという偶然(というか都市部ではそういうのが扱いやすい)ことによる、いわば「誤解」なのです。

 で、ご愛犬ですが、犬種は何ですか? 雑種なら見た目は何に似ていますか? 正確な月齢は?

 攻撃性が弱い種で、育って来て、生意気ざかりになって、うなったり吠えたりしてみているだけなら、誰か年長のイヌに叱って貰えばイヌ同士の付き合い方を覚える機会もあるでしょう。どんなイヌとも仲良くするようになるというわけではなく、好き嫌いをちゃんと意志表示できるようになる、という意味ですが。
 以前、生意気ざかりのMダックスを連れて友人が遊びに来たことがあります。そのダックスは立場をわきまえず、態度がデカかったのです。ウチの一番エライ雌イヌに何度か唸られても態度を改めなかったもので二回咬まれて、途端にイイコなりました。
 が、もしそれが、ベドリントンテリアだったら、あるいは、実猟系の本場のダックスだったら、ただの喧嘩になったことでしょう。それをきっかけにどんなイヌにも極端に攻撃的な性格になったかもしれません。

 解決は不可能な可能性もあります。可能だとしても、どのハードルを越えさせてどの条件を満たせばいいのかを判断しないと、どういったアプローチを捕ればいいのかは決められません。「例外を成立させようとする」のですから、一般的な、適用範囲の広い、「根本的な解決策」はないのです。
 お悩みが深いのならば、行動療法の専門家にご相談されることをお勧めします。訓練士の中にもこういった問題への対処が得意なかたもおられますが、他方、そうでないかたもおられ、見分けるのは簡単ではないと思うので、最初から専門家に相談されるほうがよいでしょう。ここではお名前をあげられませんので、直メールをください。ただし、私の知る限り、札幌、東京、大阪にしか専門家はおられませんので、遠方ですと出張料金が嵩むとは思いますが。
 あるいは、ヒトと動物の関係学会 http://www.hars.gr.jp/ にメールでご相談なさってみてください。保証はできかねますが、専門家を紹介いただけるかもしれません。

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