獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-200605-59

りんママさん
投稿日 2006年5月20日(土)21時02分 投稿者 はたの


 93年のもその関連も原著にあたっていませんので一般論ですが。

 集合論的にいえば、
1「同一種内の多様性のうちで、まとまりとしてくくれるものを変種という」
2「変種のうちで、・自然な ・地理的変異に由来するもの(形態・分布とも、排他的かつ非連続的であることが望ましい)を亜種という」
3「変種のうちで、飼育・栽培によるものを品種という」
で、変種は亜種や品種より上位のカテゴリーとなるのが筋です。
 が、実際には、23が優先される慣習なので、
「変種のうち、亜種でも品種でもないものを変種という」ということが多いでしょう。
 鳥の羽装でいう暗色型、淡色型とか、植物の葉の縮れてるとか斑入りとか、タイプとか型の類ですね。
 もしそうした変異が自然のもので、かつ地域差であるなら亜種とする。ホンドギツネはアカギツネの亜種ですが、分布は不連続で、乳頭数という形態でも排他的なので、亜種としてしっかりしています。キタキツネだと亜種たる所以は分布のみになるので亜種として少し弱い。統合主義的分類学者なら、キタキツネとしいう亜種は無効、ホンドギツネは有効、とするかもしれないが、その逆はない(もちろん、これはあくまでたとえであって、着目すべき形質は実際にはもっと多いわけですが)。
 もし同所的に分布しており、変異間で自然な交雑がないのなら別種とする(カワムツAとカワムツBが、ヌマムツとカワムツに整理されたように)。

 なのでイヌをタイリクオオカミの亜種とするのは少し無理目です。自然に存在する個体群と並列にならべることになってしまいますから。
Canis lupus familiaris だと Canis lupus lupus や Canis lupus arabs の中に置いたときに、その中身を知らないかぎり区別できずにややこしいわけで。
 なので、イヌのような人為的な成り立ちの個体群は、変種として、「var.」扱いするほうがすっきりします。正規な「学名」としては、イヌもオオカミもCanis lupusで十分なわけです。

 そのうえで、
・イヌが、オオカミの複数の亜種に由来するか、どの亜種に由来するかわからないのなら、
Canis lupus var.familiaris とする。一番無難です。
・ひとつの亜種に由来することが明確だと言外に言いたいのなら、
たとえば、Canis lupus lupus var.familiaris や Canis lupus arabs var.familiaris とする。
・二つの亜種間交雑に由来することが明確だと言外に言いたいのなら、
たとえば、Canis lupus lupus X C.l.arabs var.familiaris とする・・・と。

 家畜種栽培種に学名を与える前に検討できる、最近になって家畜化・栽培植物化されたものだと、たとえばビーグルなら、
Canis lupus var.familiaris "Beagle" のように書かれたりします。

 ただ、どのように分類するか、には命名規則のような、これが正しいという決まったルールはありませんし、通用している原則には論理的な穴もあります。対象分類群ごとの暗黙の了解とか、ローカルルールとかもあります。アブラナ科の植物なんか、野生種と栽培変種と間で、あるいは栽培変種どうしでもぐちゃぐちゃにかかり掛かるわけで、繁殖のコントロールをしやすいものとは事情が異なりますものね。
 イヌですと、基本的に「品種」のみ、あとはせいぜいビーグルでいうサイズ別のタイプとか、いろんな段階、いろんな背景ごちゃまぜの「系統」程度しかありませんが、日本鶏ですと、品種の下に「内種」を置いたりします。このあたりはまさに慣習優先でしょう。
 よって必ずしも原則が強いとはいかないようです。まあ、最終的には、どれがより多く引用してもらえるかの人気投票ですから。
 たとえば、「自然な」個体群なのか「人為的」なものなのか、といったあたりにも解釈の余地はあるでしょう。4万年前/1万五千年前のヒトを、現在の科学の主体である我々と同一視するならイヌは人為的に作られた集団となりますが、野生動物として捉えるなら、宿主・寄生者の共進化として「自然な」ものだとする、つまり、Canis lupus familiarisとすることも出来なくはありません。
 個人的には、遺伝屋さんは分類学に詳しくないから・・・というだけな気がしますけれど。

 少し気になるのは、遺伝的な解析結果と、「ストーリー」とをちょっと強引に繋ごうとしているのかな、という点です。
 オッカムのカミソリがあるとはいえ、家畜化がすんなり進んだと考えるのは少し単純化しすぎなような。複数の試み、その交雑、ボトルネック、戻し交配、いろいろと紆余曲折があったと考えるほうが自然ですから。
 考古学を含む人類学の成果とうまく総合されるのはもう少し先のことになりそうですね。


 ああ、おまけに、オオカミはオオカミだけ考えてもややこしい、ホッキョクオオカミ、ニホンオオカミ、コヨーテ、アカオオカミなんかを同種内の亜種にするか別種を立てるのか、という問題もあったのでした。
 立派な別種というには近いけど、これら以外の亜種と並べには差異の程度が激しいなあ、どうしよう・・・ 上種を立てようか、それとも、亜種をグループ分けして「族」で束ねようか、でもそうすると同族内の種を束ねた「族」とかぶるし、どのみち学名見ただけでは判らなくて不親切だし・・・
 
 きちんと整理がつくのは、もう少し先というより、相当先になるのかもしれません。化石を含む万単位のサンプルの解析でもできれば、いずれは・・・



イエイヌはタイリクオオカミ (Canis lupus) の飼育変種 (1993年 D.E.Wilson and D.A.M.Reeder)として考えられているので、同属異種ではない。
(リンネの頃には、独立種 Canis familiarisとして考えられていた。)
イヌの品種については、イエイヌは、同じ1つの種 Canis lupus に属し、この数百年の間人間によって作り出されたさまざまな品種(犬種)は、すべてイエイヌ=オオカミという種の飼育変種の中の変異に過ぎない。

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