獣医師広報板ニュース

鳥類掲示板過去発言No.1700-200202-43

手術の是非
投稿日 2002年2月18日(月)16時49分 プロキオン

sutemaru先生の御意見はごもっともです。私も「意見交換」等で結構
歯がゆい思いを感じる事があります。

飼い主である当事者と獣医師との間に「事実に対する温度差」が存在すること
は、致し方ない面もあります。その温度差ができる限り小さいことが理想なの
ではありますが、「片思い」で終わる事も少なからずあると思うのです。

今回のような症例で言えば、腹壁の整形も、卵管の切除もそれ程難しいとは考
えていません。癒着の剥離に手間取るかもしれないというくらいだと想像しま
す。しかし、手術の終了した後で患者が生存しているかというと、これは別問
題です。
だいたいが病院へ来る時点で大分進行してしまっていますし、血管が確保でき
ないので、血圧低下には抗しようもなく、骨髄輸液では間に合わないでしょう。
腹腔内を綺麗にしようとして洗浄すれば、それが原因で息の根を止めかねませ
ん。ヘルニア嚢をきれいに切除できたとしても患者本人があの大きさですから
その中に含まれる血液や体液も相対的に無視することもできないと考えます。

初めから手にあまる難しい手術であれば、手術の適応など私は考えません。難
しくはないけれども、生命の保証ができない場合というのが困るのです。
術後の生存率が5%や10%であっても、それしか救命方法がないのであれば、
これは迷わないと思います。でも、なにもしなくてもあと半年くらいは大過な
く過ごせるのであれば、判断のしどころといえます。飼い主さんと動物との絆
、人生観にまで及んで来ます。

獣医師にしても、「死んでも良いといってくれなくては、手術は引き受けられ
ない」と広言する先生がいるくらいです。
飼い主があまりに簡単に考えていて、こちらが二の足を踏む場面だってないこ
ともないのです。
「お願いします」「引き受けましょう」という相思相愛のタイミングがいつも
成立するとも限らないわけです。

したがって、ムックンさんがいろいろ多くの意見を聞きたいというのは、私は
かまわないと考えます。
ただ、決断は御自身で為さらなくてはなりません。他人にこう言われたからで
は困りますし、手術するしない、そしてその結果については、自らが負わなく
てはなりません。
手術が成功したところで、患者が死ぬ事はあります。そこで取り乱すのなら、
やはり変です。悩むのであれば、今こそがその時なのです。

というように私は考えるのですが、受け取り方によってはずいぶんと突き放し
た意見と感じられる方もいるかもしれませんね。

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