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「真鶴」
  川上 弘美


失踪した夫を思いつつ、恋人の青茲と付き合う京は、夫、礼の日記に、「真鶴」という文字を見つける。“ついてくるもの”にひかれて「真鶴」へ向かう京。夫は「真鶴」にいるのか? 『文学界』連載を単行本化。 (「MARC」データベースより)



川上弘美さんの本は、「センセイの鞄」のように、すんなりと受け入れられて、心がほんわかとなる本と、「蛇を踏む」のように、鋭い感性で描かれた、独特の世界の本とがありますが、本著は、後述の本でしょう。

夫が失踪して13年。夫を忘れきれないままに、生活をする京の周りには、いつしか、彼女を取り巻く「ついてくるもの」の存在があった・・・。

簡素化した、独自の語り口が、特徴的で、印象に残る本でした。物語の流れの中で、最小限の動詞だけを使った行為の表現は、あっさりしているのに、余韻を感じます。

割り切ろうとしても、割り切れない人の心。
「ついてくるもの」に、そのまま引きずられてしまう可能性との狭間で揺れる女心。
でも、やはり、その時期が来ないと、そこへは行かれないらしい。そして、愛する者への思い、死にたくないという強い思いが、現実の世界に引き戻してくれるのでしょう。 (2007.04.19)