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「私の男」
桜庭一樹  



お父さんからは夜の匂いがした。 狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂『私の男』。 (出版社 / 著者からの内容紹介より)



これは問題作ですねぇ。

直木賞を受賞した、桜庭さんの作品と言うことで、本を読むまで、予備知識を入れないようにしていただけに、読み始めて、その妖しげな雰囲気に驚きました。

そして読み進むと、やはり・・・。題名通りの話しなのですねーー。

最近、「犬身」を読んだり、映画「ブーリン家の姉妹」を見たりと、こういう話題が多かったので、世の中、そういう傾向なのか??と、戸惑います。

しかし、この著者は、話の進め方がうまいです。
花の結婚式の話から、時代が逆行して、しかも、年代が飛ぶ所など、こちらの想像に任せる様な意図があるのでしょう。
いったい、どうして、何故・・・。その理由が、徐々に分かるようになっています。

最初、私は、淳悟に対する嫌悪感と、花に対する哀れみを強く感じましたが、読んでいくうちに、ちょっとずつ淳語に対するその感情が、薄まるのが、分かりました。それは、淳悟という人間が、だんだんに分かってきたからかもしれません。そして、ほんの一瞬だけ、彼を理解できたような気さえしました。

それは、「お・・・」という言葉でです。あの言葉に、彼の苦悩と、精神的な発達の未熟さを感じて、彼を許せる気がしたのです。でも、それは、一瞬のことで、その後、読み進むと、やはり、嫌悪感が戻ってしまいました。
花はいったい、この事態を、どう理解し、どう折り合いをつけていったのでしょう。やはりそれは、”血”なのでしょうか・・・。

何しろこの本は、一筋縄ではいかない本・・・と言う印象です。
タブーに、真正面から挑み、しかもそれを決して否定していない作品で、リスクも、大きかったと思いますが、よく、直木賞を獲れましたねぇ。 (2008,10,27)