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地球の中心までトンネルを掘る
ケヴィン・ウィルソン


「あなた」だったかもしれない人たちの物語 代理祖父母派遣会社で「祖母」を演じる女性、 折り鶴を使う遺産相続ゲームに挑む男たち・・・ どこにでもいそうな人々が送る、 ほんの少しだけ「普通」から逸脱した日常 (帯より)



先日見た映画「ファング一家の奇想天外な秘密」の原作者ケヴィン・ウィルソンが、シャーリイ・ジャクスン賞、全米図書館協会アレックス賞を受賞した作品です。
どうしてこれを読もうと思ったかというと、「ファング一家の奇想天外な秘密」が、イマイチよく分からない作品だったからでした(^_^;。

本には、11編の短編が収録されていて、それぞれ少々変わった人たちが、愛情たっぷりに描かれています。

たとえば、代理祖父母派遣会社に勤めている女性だったり、両親がそうであったように自然発火により死ぬのではないかと日々恐れている男性だったり、母親が残した家の相続権を”折り鶴”により決めようとしている男たち、などなど・・・。
みんながみんな、世間の常識からちょっとばかり外れている人ばかり。
そして、それぞれが、少しの悲しみと大きなこだわりを背負いながら、一生懸命に生きていてる愛すべき人たちばかりでした。

私のお気に入りは、「女子合唱部の指揮者を愛人にした男の物語(もしくは歯の生えた赤ん坊の)」。
これは、赤ん坊の父親の不倫話なのですが、その脇役であるべき赤ん坊に、ずらりと歯が生えそろっていたという話です。
赤ん坊に、すべての歯が生えていたら・・・。想像するだに恐ろしいというか、滑稽というか、不都合すぎるというか・・・(^_^;。なんだかすごい話でした(^_^)。

それから、「あれやこれや博物館」も、いいですね。
他人から見れば、がらくたに他ならないもののコレクションを展示している博物館に勤める女性の話です。
その展示物が、これまた普通ではないものばかり。
アプリコットの缶詰のラベルが573枚。400本を超えるスプーン。雑誌や新聞から切り抜いたアルファベットの切り抜きなどなど。そこに務める女性と、毎週水曜日に必ず訪問する医師との間柄も、ほのぼのとした優しさを感じます。

そして「ワースト・ケース・シナリオ株式会社」も、すごいです。
この会社、起こりうる最悪のシナリオを企業に提示して、大金を受け取るという、なんだかまともに考えると、詐欺まがいの会社なのですが、実は、至極まっとうな会社らしいのです。危機管理的には必要なのかもしれませんが、そんな不安を煽るような会社、貧乏神みたいな感じで、来て欲しくないですすよねーーー(^_^;。また、そこで、働く青年は薄毛を気にして、抜けた毛を集めて枕にするなんていう変人です(^_^;。でも、ここまで読み進めてくると、なんだかそんな彼が、いとおしく思えてきてしまうのも、この本ならではでしょうか。

というわけで、この本を読んで、あの映画「ファング一家の奇想天外な秘密」に、共通点を見いだせて、あの登場人物たちが少し理解できたような気がします。
結局、”ちょっと変な人たち”と言うわけですかね(^_^)。 (2017,02,21)