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人畜共通伝染病とオウム病について

平井克哉(獣医学博士・岐阜大学名誉教授)


 2.わが国における人のオウム病発生状況
  最近数10年間に人のオウム病は世界各国で増加している。これは鳥類のオウム病の
  増加に反映していると考えられている。アメリカCDCの統計では'80〜'84年に年間
  120〜150名が,イギリスCDSあるいはCDSCの統計では年間約250〜300名が罹患してい
  ると報告している。WHOの統計をみると,西ドイツ,スウェーデンおよびデンマーク
  でも1975年以来患者は増加している。
  わが国のオウム病は届出の義務がなく,また組織的調査もないので,実数は不明であ
  る。徐らは1957年の初発例以来,49症例を診断し,10名の死亡例を記録している。
  これらの感染源は主にオウム・インコ類である。一方,金沢は1967年以来新潟県で
  15症例を診断し,これらを含めでこれまでに報告された118症例を集計して,2例の不
  明例を除いて,セキセイインコなどの飼鳥が推定感染源であることを指摘している。
  最近向井らは,上深部頸部リンパ節炎を主症状とする260名の患者はオウム病に対す
  るCF抗体保有率が極めて高いこと,愛玩鳥との接触歴も高率であること,および上咽
  頭ぬぐい液などから病原体が高率に分離されることから,従来の典型的な呼吸器の
  病型以外に頸部リンパ節炎の病型があることを示唆している。一方,最近鳥類から
  の感染でなく,人から人に伝播するオウム病クラミジアがワシントン大学の王教授
  により分離され注目されている。わが国においても,予研の赤尾らはこの型の流行
  が東京都と愛知県の中学校であったことを血清疫学的に証明した。
  表2は,最近の血清疫学的調査を集計したものである。

  人のオウム病に対する補体結合抗体(表2)
検査対象検査例補体抗体保有率(%)研究機関
>=8>=16>=32>=64
健康人'79-83236522.87.11.60.35
愛玩鳥と接触している健康人'75-8129441.222.14.42.02
呼吸器疾患'81-8386727.114.16.92.32
呼吸器疾患'841693712.98.52.81.31
頚部リンパ節炎'8326010084.246.913.51
  (注)−野呂ら、赤尾ら、生江ら、三宅ら、平井ら、大泉ら、除ら、中島ら、向井らの
   成績を集めた

  CF抗体価の32倍以上をオウム病に対する抗体とみると,健康人の1.6%.愛玩鳥に接す
  る健康人の4.4%,呼吸器疾患の患者の6.9%,頸部リンパ節炎患者の46.9%に陽性が認
  められる。また,1984年の1年間に民間検査機関(SRL,BML,北里およびシオノギ)にお
  いて実施された呼吸器疾患患者の調査によると16,937名中,オウム病クラミジアに
  対するCF抗体価の32倍以上を示した例が473例(2.8%)であった。アメリカのCDCでは
  発熱,悪感,筋肉痛,頭痛,呼吸器症状とCF抗体価32倍以上を示した患者をオウム病と
  判定しているが,上述の成績から,1984年には少なくとも473名以上がオウム病患者
  と推定される。一方,起炎病原体不明な呼吸器疾患患者は高率にオウム病CF抗体を
  保有していることが知られている。このように,わが国の呼吸器疾患患者や頸部リ
  ンパ節炎患者には,多くのオウム病罹患者がいることが推定される。

  3.わが国における愛玩鳥の汚染状況

このページは平井克哉先生より許可を得て、川村幸治が作成しております。