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父親たちの星条旗      


2006年 アメリカ アクション・歴史・戦争   

<監督>クリント・イーストウッド
<キャスト>ライアン・フィリップ , ジェシー・ブラッドフォード , アダム・ビーチ , ジェイミー・ベル , バリー・ペッパー , ポール・ウォーカー , ロバート・パトリック , トーマス・マッカーシー, ベンジャミン・ウォーカー

<ストーリー>
太平洋戦争末期の1945年、衛生兵として硫黄島に上陸したジョン・“ドク”・ブラッドリー(ライアン・フィリップ)は、海兵隊員たちと共に激戦を戦い、とうとう、擂鉢山を制覇して、頂上に星条旗を掲げた。その時の写真がアメリカの新聞に載ったため、彼は一躍、英雄となったのだが・・・。

<感想>
アメリカにとっての硫黄島。それには、こんな意味があったのですね。
戦後61年。どんどん戦争の記憶が消えてゆく中で、硫黄島の事をどれだけの日本人が知っていることでしょう。
かく言う私も、沖縄の激戦のことは、映画で見て知ってはいましたが、この硫黄島のことは、ほとんど知らなかったです。
それを、アメリカ人のクリント・イーストウッドに教えられるとは・・・。改めて、日本の戦後教育の欠落を考えさせられました。世界史よりも、日本史をもっと勉強した方がいいかも・・・。
日本人の私でも、こうなのですから、アメリカ人に、硫黄島の知名度は、低いのでは?と思っていたとおり、イーストウッド監督作品にしては、残念ながら、ちょっと興収が悪かったようです。「硫黄島からの手紙」も、ちゃんと見てくれるかなぁ。

英雄が大好きなアメリカ人。その英雄の内幕を描いた映画です。
戦争の英雄は、こういう意味を持って、こうやって作られ、こういう風に使い捨てられてゆくという現実を知る、いい機会となりました。
そして、英雄として祭り上げられた若者の、三者三様の受け止め方も、的確に描かれていて、とても、分かりやすかったです。
それにしても、アメリカでは当時、英雄”ツアー”なるものがあって、まるでイベント騒ぎなのには、驚きました。と、同時に、この同じ時期の日本の状況とを考えると、やっぱり、日本には、全く勝ち目はなかったということですねーーー。

ここに描かれている戦争は、個人対個人の憎しみによる戦いではなく、大儀のための戦い(この場合は、戦略的拠点としての硫黄島の奪取)であるためなのか、敵国としての日本が、私自身の国であるにもかかわらず、見ていても妙な息苦しさがないのが、とても不思議でした。それは、ひょっとすると、監督の戦争に対する思い、そして、人間愛がこちらに伝わってきたからかもしれません。
公開されて1ヶ月あまり経ってからの鑑賞で、映画館は空いているかと思ったにもかかわらず、4割ほどの入りで、そのほとんどが、ひょっとしたら戦争体験者かと思われるようなご老人でした。その方たちは、この映画を、どのように感じられたでしょうか・・・。

それにしても、この戦闘シーンは、すごい迫力でした。あの「プライベート・ライアン」の冒頭の30分間を彷彿とさせる映像が続きます。戦争とは、こういうものであるということがひしひしと伝わってきます。
ついさっきまで、一緒に笑っていた友が、隣で、無惨な死を晒している。それでも、その死を悲しむ暇もなく、砲弾の飛び交う中に飛び出していって、目的達成のために、前進しなければならない。隣で横たわる友の死は、一瞬先の自分の姿でもあるのです。よく、塹壕から飛び出し、弾丸の中を走る勇気が出るものだと、身の震える思いでした。
今でこそ、PTSD(心的外傷ストレス障害)は、広く知れ渡っていますが、当時、このような戦いを強いられた兵士たちは、普通の精神状態を保てるはずがないと思わざるを得ませんでした。人はどうして、こんな争いをいつまでも続けるんでしょう・・・。(2006,11,24)



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